Column:Point Of View
2019年1月1日号
痕跡学のご紹介ぁ峅燭あなたの行動を決めているのか」
政治経済学部経済学科 林 良平 講師

これまでに、人々は同じ状況に置かれると同じ行動をとりがちであり、その行動の後には痕跡が残ることを例示してきた。そして、人々は痕跡を手がかりに行動するため、痕跡をデザインすることで行動を変化させられることも指摘した。今回は、これらの視点の背景にある人間観を披露したい。
 
他人を管理する立場の人々は、都合の悪い行動をとかく内面の問題にしたがる。怠惰である、悪意がある、不ぶしつけ躾であるなどと非難する。しかしそうした議論は往々にして解決策を導くことはできず、轢れきを生じさせるだけである。

以前の勤務先で、トイレの洗面台にカップ麺の残ったスープを捨てて、排水口を頻繁に詰まらせる学生がいると問題になった。職位も学位も持つ大人たちが、十代の若者の残飯に悩まされ、真剣に議論している姿は滑稽であった。しかもその結論は、「マナーが守れないならカップ麺の販売を禁止しよう」という陳腐なものであった。
 
そこで同僚の先生が、「ゴミを捨てさせたいなら、洗面台に三角コーナーを用意したらよい」と提案すると、皆、目が覚めたように納得した。管理者は好ましくない行動の原因を追及するときに、責任も同時に追及し、特に行動の動機が重要視される。つまり、悪しき動機に基づく好ましくない行動が、不都合な結果を招いているというストーリーを想定している。 

しかし痕跡を見る限り、人々はそこまで熟慮して行動を決めてはいない。環境に誘われて、無邪気に即興で行動している。不都合な結果を招くのは誤った行動に誘導する環境こそが問題なのである。 痕跡学は、行動の根拠に動機を持ち出す議論からは距離を置いている。そして、動機ではなく環境から人々の行動を説明しようとしている。
 
ゼミで痕跡探しゲームをしたことがある。2人1組で学内を巡り、痕跡を見つけたら写真を撮って共有する遊びである。学生は奇抜な痕跡をたくさん見つけて「○○な所では△△しがち」と説明をつけて写真を共有してくれた。環境にある痕跡を観察するだけで、多くの行動を説明できると示してくれた。「○○な所では△△しがち」というフレーズを使うと誰でも上手に痕跡を見つけ、動機なしに行動を説明できるはずである。
 
最後に、痕跡学に興味を持たれた読者には、関連分野である「ナッジ」「仕掛学」「アフォーダンス」「考えなしの行動」も紹介しておきたい。(筆者は毎号交代します)