特集:教育の現場から
2018年9月1日号
両国のQOL向上を議論
日露学生フォーラム
医療充実や健康長寿実現へ 連携による解決策を提案

8月7日から15日まで行われた平成30年度海外研修「ウラジオストク航海」。そのメーンイベントとして、12日から14日まで望星丸船内で日露学生フォーラム「日露両国のライフケア:未来への提言」が開かれた。日本とロシアから参加した学生103人が、13グループに分かれて2日間にわたって議論。両国の医療制度の改善や健康長寿社会実現などQOL向上に向けた課題の解決策を提案した。

学生フォーラムは、ライフケア分野が抱える現状への理解を深め、英語でのディスカッションを通して国際的な舞台で活躍できるコミュニケーション力を養うことを目的に開かれた船内ではインターネットがほぼ使えないこともあり、学生は各自で事前にテーマの案や参考資料を用意してきた。

フォーラムは、12日夜のプリパレーション・セッションからスタート。生活班とは別に、男女混成で組まれたグループに分かれ、テーマを決めるところから作業を始めた。しかし、議論開始直後から、学生たちはさまざまな問題にぶつかる。持ち寄った資料の不足や、双方の文化や社会制度の違いから議論がうまくかみ合わないグループが相次いだ。

澤口紫乃さん(教養学部3年)は、「日本人は相手の意見を受け止めてから議論をするけれど、ロシア人はまず自分の意見を主張する傾向があった。本当の協力・協調とは何なのか、どうすれば折り合えるのか、ものすごく悩んだ」と振り返る。一方、ウクライナ出身のビクリスチュク・カテリーナさん(近畿大学国際学部3年)は、「『病院』や『保険』など一見同じ単語でも、双方の持っているイメージが違うことも。両国の制度や文化を理解し、橋渡しできる人の重要性を、身をもって学んだ」と語った。

双方の制度を参考に 学生視点の発想を披露
13日のフォーラム当日、学生たちは互いの接点を見つけ議論を深めていった。前日に気がついた議論を進めるうえでの問題点をクリアしつつ、グループ内での意見を集約してテーマを設定。それぞれの国での取り組みに関する情報を出し合って、提案をまとめていった。

川直樹さん(観光学部3年)は、「これまで経験したことがないほどタフで、内容の濃い2日間だった。信頼関係のつくり方や相手を理解することの大切さなど、人生を通しての財産になる経験が積めた」と話す。ユリア・モロドツォヴァさん(サハリン大学法経済経営学部4年)は、「双方とも互いの国についてもっと知る必要があり、特に医療やライフケア分野では日本から学ぶことが多いと実感した」と語った。

当日の夜には提案内容を模造紙2枚のポスターにまとめつつ、発表原稿を準備。「自分たちの提案をわかりやすく伝えたい」とデータをふんだんに盛り込んだり、イラストを使ったりしてそれぞれ工夫を凝らしたほか、かけ合いのパフォーマンスを何度も練習するグループもあった。14日のプレゼンテーションでは、「禁煙・禁酒をサポートする医療ツーリズムや「健康状態を日常的に管理できるケアカフェの導入による医療費削減策」「インセンティブ導入による健康診断受診率の向上」「日本のジェネリック医薬品工場誘致による極東の産業振興」など多彩な提案が発表された。

発表終了後、互いの健闘をたたえ合った学生たち。中村元哉さん(北海道大学大学院環境科学院2年)は、「国際的なビジネスで直面する議論を疑似体験できたように思う。困難も多かったけれど本当に楽しかった。この経験は将来絶対生きると信じています」と笑顔を見せていた。

大学や国籍が違う仲間が協力し助け合った船内生活
平成30年度海外研修「ウラジオストク航海」では8月7日から15日までの航海中、研修団は「望星丸」で共同生活を送った。

大学や国籍の異なるメンバーが13の生活班に分かれて学生室で寝起きをともにしながら日々のプログラムに参加。1日3回の食事の配膳や毎日の船内清掃を分担し、船内生活が始まった直後からシャワーや洗濯の順番も班長同士で話し合ってルールを決定した。12日から14日までの日露学生フォーラムや13日のスポーツ大会でも、引率教員と相談しながら、全体の時間配分や司会進行も自分たちで決めた。

学生リーダーの越智将太さん(大学院工学研究科2年)は、「7日に集合した直後から不思議と打ち解けられた。困ったことがあれば班に関係なく助け合える。心からかっこいいと思えるメンバーがそろっていた」と語る。

11日に極東連邦大学とサハリン国立総合大学の学生が合流したときには、日本人学生がロシア人学生に船内のルールや施設の使い方をレクチャー。休み時間には部屋や食堂、甲板などで語り合う姿が随所で見られた。山下藍子さん(北海道大学経済学部2年)は、「寝食をともにしないとわからないことがあると知れたこと自体が収穫だった。多くの人と話す中で、自分の視野が大きく広がった」と振り返る。

もちろんロシア人学生が合流した当初は、互いの英語力や考え方の違いからうまく意思疎通ができない場面もあった。冨川千鶴さん(工学部2年)は、「それでもなんとか英語で話す中で、互いの共通言語を持つことの大切さを学び、ロシア人学生一人ひとりと個人として向き合えるようになった」と語る。グレブ・リャシコさん(極東大法学部3年)は、「日本人は真面目で冷たいというイメージを持っていたけれど、実際に接すると親切で明るく、話しやすかった。私たちと友達になれる人々なのだと実感できた」と話した。

専門家の授業などで幅広い分野を学ぶ
船内では、各大学の引率教員による講義も開かれた。新潟大学の盒興┝副学長は、古代から近代までの船舶製造と航海技術を紹介。山田清志学長は、東海大とロシアの交流の歴史と、東海大が進めている「ライフケア分野における日露ブリッジ人材育成」プログラムの狙いを解説した。

そのほかにも、少子高齢化時代の都市計画や波と風の関係、サハリン開発や極東における日露の経済協力の現状、エネルギーセキュリティーに関する講義、日本語とロシア語の基礎講座も実施。14日の学生フォーラム終了後には、書道や折り紙、けん玉遊びなどの日本文化体験と剣道の試技も行われた。学生たちからは、「共同生活をしながら、近い距離間で英語の講義を聞くこと自体が貴重な経験だった。大学で専攻している分野以外の内容を幅広く学べたことも楽しかった」といった感想が聞かれた。

ロシア人学生の日本研修 歴史や医療の現場に触れる

8月16日から18日までの日程で行われたロシア人学生向けの日本研修は、日露友好の歴史や日本の医療制度を学ぶことを目的に実施された。

16日には、ユネスコの世界遺産に指定されている伊豆の国市の韮山反射炉を訪問。反射炉建造の経緯や当時の大砲製造技術、日本の産業近代化に果たした役割を学んだ。その後、沼津市戸田に移動。安政東海地震(1854年)に伴う津波でロシアの軍艦「ディアナ号」が座礁した後、両国の船大工らの協力により戸田で代船「ヘダ号」が建造され、日露友好の発端となった同地の歴史遺産を巡った。

一行は戸田日ロ交流協会の水口淳理事長の案内で、戸田で死亡した2人のロシア水兵の墓がある宝泉寺で献花した後、戸田造船郷土資料博物館を見学。設計図や東海大の協力で博物館に寄贈された模型を通して、「ヘダ号」建造が洋式造船技術の導入に貢献した歴史に触れた。コンスタンチン・ヴァスコフさん(サハリン大法経済経営学部3年)は、「母国の船が日本の造船技術発展に関係した歴史を知り、とても興味深かった。戸田の風景も美しく、魅了された」と話していた。

17日には、伊勢原市の東海大学医学部付属病院を訪問した。最初に、飯田政弘病院長とスタッフから、病院の理念や機能、病床数・医師数についてレクチャーを受け、健康学部の石井直明教授と医学部の三上幹男教授による講義を受講。食事と健康の関係性と、婦人科がんを中心としたがん検診の考え方と手法、その効果などを学んだ。

続いて院内も視察し、外来受付や病棟、高度救命救急センター、ドクターヘリを巡った。アレクサンドル・ブソエドフさん(極東大経済経営学部4年)は、「清潔で効率よくシステム化された病院を通して、日本の最先端医療を学ぶ貴重な機会になった」と感心しきりだった。

18日には、東京都内を観光した後、新宿ワシントンホテルで修了式に参加。19日の帰国を前に、すべてのプログラムを終えた学生たちの顔には笑顔があふれていた。

 
●学生立ちの声から●
小菅穂菜水さん(東海大学観光学部4年)
異なる価値観や習慣を持つ人たちと接するときにも、尻込みせず、自分から行動を起こせば友人になれることを知った研修でした。もっと多くの人がロシアを訪れ、文化交流が進むべきだと感じたのはもちろん、私自身もまた行きたいと思うようになりました。

松田直輝さん(北海道大学農学部3年)
ロシアについて学ぶ機会はこれまでもあったのに、自分の視野の狭さが吸収を妨げていたのかもしれないと思うほど充実した研修でした。ウラジオストク訪問や先生方の講義から極東地区が大きく発展していることを知り、私たち学生も足踏みしている暇はない、もっと勉強しなければと実感しました。

長浜佐和さん(新潟大学人文学部3年)
互いを理解するためには、直接会って話すことがとても大切であることを学びました。隣国なのに、今はまだ双方ともお互いをほとんど知らないこともわかり、若者がもっと語り合う必要があると感じました。

柳井剛志さん(近畿大学理工学部2年)
日露学生フォーラムを通して、日本とロシアは似たような問題を抱えていると感じました。これからも話し合いを重ねて接点を見つけ、双方のよいところを出し合えば、きっと互いの経済発展につなげられると期待が持てました。

ドミトリー・リトヴィノフさん(極東連邦大学国際関係学部4年)
日本人学生と語り合う中で、「彼らとは友人として、今後も協力していける」と確信しました。また日本の文化や社会制度への理解を深められたことは、私の将来にとってとても重要な財産になると感じています。

イリアス・ヌルガリエフさん(サハリン国立総合大学法経済経営学部3年)
日本人学生がロシアに興味を持っていることを知り、私ももっと日本を知りたいと思う充実したプログラムでした。このプログラムが日本とロシアの新しい一歩となることはもちろん、学生同士がさまざまな分野で交流する機会が増えることを期待しています。

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(写真上から)
▽メンバー同士でアイデアを闘わせる。ときには甲板も使い、何度も発表練習をするグループも見られた
▽2日間にわたって語り合った成果を発表。困難を乗り越えてすべてのグループが発表を終えたことに引率教員からも賛辞が送られた
▽語らいの場だった学生食堂
▽大いに盛り上がったスポーツ大会
▽ヘダ号の模型の前で水口氏の解説を受ける