特集:研究室おじゃまします!
2018年4月1日号
ユニバーサル・ミュージアムとは?
誰もが「触って」楽しめる
課程資格教育センター 篠原 聰 准教授

歴史的な遺物や美術品を展示し、歴史や文化、芸術などを伝える博物館。重厚な建物を擁することも多く、ヨーロッパで誕生して以来、長らく「知の殿堂」とも称されてきた。そんな重々しい雰囲気の博物館が、近年大きく変わりつつある。年齢や性別、障害の有無を問わず誰もが楽しめる「ユニバーサル・ミュージアム」の視点から、博物館の新たな可能性を探る課程資格教育センターの篠原聰准教授を訪ねた。

日本国内には現在、類似施設も含めると6000近くの博物館がある。地域の歴史博物館や植物園、美術館などその種類はさまざまだが、これまでは貴重な収蔵品を保存し、展示を通して一般の人に歴史や文化などを紹介する形がほとんどだった。篠原准教授はこうした博物館の姿を、「市民を啓蒙するという志向が強く、発信する情報も目で見て学ぶスタイルに偏りすぎていた」と指摘する。
 
そうした中、博物館を取り巻く環境は大きく変わりつつある。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、人種や障害の有無に関係なく誰もが不自由することなく過ごせる社会づくりが模索される一方、昨年6月には「文化芸術振興基本法」が改正され、文化財「保護」重視から「保護と活用」の重視へと国の方針が大きく転換された。

感覚の多様性を尊重 新しい博物館とは
博物館の未来像の一つとして篠原准教授が研究を進めているのが、ユニバーサル・ミュージアムという考え方だ。もともとは、視覚や聴覚に障害のある人も楽しめる博物館にしようという発想から生まれた。篠原准教授はその概念を広げ、「障害の有無に関係なく、年齢や性別、国籍をこえてさまざまな人がつながり、語り合うことで新たなアイデアが生み出され、創造力が磨かれる場所にしたい」と考えている。

「すでに多くの外国人が国内に住み、旅行客も増えるなど社会の多様性は進んでいます。ただ地域に目を向けると、人と人のつながりが薄れて世代間の交流も少なくなり、かつての日本社会を支えてきたコミュニティーが失われつつある。そうしたひずみを解消し、新たな人と人の輪をつなぐ役割を果たせれば」と話す。

イベントを通して 可能性を探る

ユニバーサル・ミュージアム実現のキーワードとして篠原准教授が注目しているのが、「触る」ことの可能性だ。
 
文部科学省の平成25年度「地(知)の拠点整備事業」の採択を受けた東海大学のTo-Collaboプログラムの一環で13年から、展示物に触れる市民向けの講座や湘南校舎内にある彫刻の汚れを取り除いて磨くメンテナンスイベントのほか、さまざまな分野の専門家を招いて“触覚”と彫刻の可能性を議論するシンポジウムを実施。文化や芸術の保存・活用に携わる研究者らとともに研究を進めている。

「彫刻に触れると誰もが目で見ただけでは気がつかなかった魅力を発見し、年齢の違う初対面の人同士が生き生きと語り合うようになります。『触覚』は、性別や人種にかかわらず誰もが持っている感覚の一つであるだけに、その可能性は大きい。実際に資料に触るイベントには新たな博物館像につながる大きなヒントがあります」
 
とはいえ、博物館学芸員の間では「保存が第一という考え方がまだまだ一般的」だ。「まずは近隣の自治体や市民と協力して、屋外に設置されている彫刻のメンテナンスを進め、その魅力を発信していきたい。保存と活用を両立する方法や従来の爛魯灰皀〞という発想にとらわれない博物館の役割や可能性を提案し、多様な文化や価値観を認め合える未来の実現に貢献できれば」



Close up
出会いと当たり前の感覚を大切に


「これまでの人生はずっと出会いに支えられてきた」と語る。

研究に目覚めたのも、「芸術ってなんか面白そう」と思って進学した大学で田中日佐夫教授と出会ったのがきっかけだった。「先生は、ニューマニズムという観点から美術・芸術を見ることが大切だと教えてくれた。広い視野に立ったものの見方を学び、日本美術の背景にあるロマンを自分なりに探求したいと思うようになったんです」

卒業後は、恩師の紹介で神奈川県鎌倉市の鏑木清方記念美術館に勤務。鏑木は美人画を得意とする日本画家として明治から昭和にかけて活躍したが、浮世絵出身のため亜流と見られながらも、庶民の暮らしや下町風情への視点を持ち続けた姿に感銘を受けた。

「鏑木は、ごく当たり前の人々の生活をこよなく愛した人で、当時の日常生活を学べる作品も多く残している。そうした作品や生き方から、ごく当たり前の感覚や生活から発想することの大切さを学んだ」という。

東海大に勤務してからは博物館相当施設である湘南校舎の松前記念館の運営にも携わってきた。「国の財政が厳しくなる中、全国の博物館も大きな岐路に立っています。学芸員を目指す学生たちとともに、“当たり前の感覚”をベースに博物館を元気にする方法を探っていきたい」
 
(写真上)2016年8月に実施した湘南校舎にある彫刻のメンテナンスイベント「彫刻を触る☆体験ツアー!!」
(写真中)同年12月にはオリジナルのブロンズ昆虫を作る家族向けの「TOKAI×MUSEUM GO!!」も開いた
(写真下)ユニバーサル・ミュージアムの可能性を議論した2016年12月のシンポジウム

しのはら・さとし 1973年東京都生まれ。2006年成城大学大学院文学研究科(美学・美術史専攻)博士課程後期単位取得退学。専門は日本近代美術史(美人画)と博物館学。08年から課程資格教育センター博物館学研究室勤務。18年4月より松前記念館事務室室長代行。