特集:研究室おじゃまします!
2018年3月1日号
雲やチリの影響を解き明かす
気候変動観測衛星しきさいで
情報理工学部情報科学科・情報技術センター 中島孝 教授

昨年12月23日に鹿児島県・種子島宇宙センターから打ち上げられた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の気候変動観測衛星「しきさい」を使った観測プロジェクトには、東海大学の教員が数多くかかわっている。中でも、情報理工学部の中島孝教授と工学部の虎谷充浩教授はそれぞれ、大気チームと海洋チームのリーダーとして参画している。前号の虎谷教授に続き、今回は中島教授に大気観測の狙いや可能性を聞いた。

雲は、大気中のチリやほこり(エアロゾル)を核に水蒸気が凝結してできており、地球全体の水・エネルギー循環を支える重要な存在だ。中島教授は20年以上にわたって雲のメカニズムを研究。アメリカの人工衛星「Terra」と「Aqua」や日本の「ひまわり」の観測データを解析するアルゴリズムを開発し、代々木校舎と沖縄地域研究センター、宇宙情報センター(熊本県)に設置した全天カメラの画像分析などを組み合わせて、エアロゾルの分布や時間変化、雲の発生過程などを研究してきた。

過去の研究で雲やエアロゾルが気候変動に大きな影響を与える可能性があることがわかってきたが、「雲が発生してから消えるまでのメカニズムやエアロゾルが日射量に与える影響など、わかっていないことが多い」と語る。

陸上も観測できる 高性能センサーを活用

これまでの衛星では、地球の3割を占める陸上でのエアロゾルの動きや、雲を構成する粒の大きさ・量を長期間にわたって定期的に観測できなかったことが、その解明を阻んできたという。

「現在主力として使われているTerraとAquaは、陸上のエアロゾル観測は苦手です。また、『ひまわり』は日本や西太平洋域しか観測できない。そのため、地上での観測結果をもとに地球全体の状況を予測し、シミュレーションする手法が多く用いられてきましたが、精度に限界がありました。『しきさい』はその課題を解決できる高性能センサーを搭載した画期的な衛星です」

「しきさい」に搭載されている「SGLI」(多波長光学放射計)は、近紫外線から可視光、赤外線までのさまざまな波長の光を19のチャンネルに分けて観測。偏光観測という手法と組み合わせることで、海上だけでなく陸上のエアロゾルの分布や全球の雲を観測できる。しかも2日間で地球全体を観測するため、刻々と変化していく様子も追跡できるようになった。

人々の思いが詰まった衛星 困難を乗り越えて実現
中島教授は「しきさい」に企画開発段階から携わってきた。それだけに、今回の打ち上げ成功には特別な思いを抱いている。

「JAXAは、15年前の2002年にも同様の観測を可能にする衛星『みどり供戮鯊任曽紊欧燭海箸あります。しかし、この衛星は異常が発生してしまい10カ月間しか運用できなかった。その失敗を糧に、JAXAのスタッフと私たち研究者、企業の技術者が何度も激論を交わしながら、打ち上げまでこぎつけたのが今回の『しきさい』です。さまざまな困難を乗り越えられたのは、かかわった人々の執念があったから。打ち上げ後の1月1日から6日に最初の試験画像が届いたのを見たときの感慨はひとしおでした」

新たな「眼」を駆使し 気候変動の仕組み解明へ

大気チームでは今後、地球全体のエアロゾルの分布や雲の流れを観測。気候変動への影響や関連性について研究していく。

来年度には地上から大気圏までの雲とエアロゾルの分布を垂直方向で観測する人工衛星「Earth CARE」が打ち上げられ、「しきさい」のデータと組み合わせた研究も始まる。

研究成果が蓄積されれば、現在国内外のさまざまな機関が発信している気候変動シミュレーションの精度を高め、より正確な将来予想や気象予報にも貢献できるようになる。「現在発表されている21世紀末時点での地球全体での気温上昇予測値を見ると、2度から4度程度までの開きがあります。一見するとわずかの差であるように見えますが、地球全体の数値になると、私たちの生活への影響や必要となる政策も全く異なります。未来の地球でも私たち人間が快適に生きていける環境を維持するためにも、できる限り多くの謎を解き明かしたい」

 
(写真上)「しきさい」が2018年1月6日午前10時20分ごろ(日本時間)にオホーツク海から日本列島上空で取得した観測データによる合成画像。水雲(白色)と氷雲(明るめの水色)が詳細に捉えられていることが見て取れる(画像提供=JAXA)
(写真下)「しきさい」のイメージ画像。1990年に打ち上げられたアメリカの観測衛星「Terra」「Aqua」の後継衛星としても世界中から高い期待が寄せられている(画像提供=JAXA)

なかじま・たかし 1968年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒業。東京大学大学院理学系研究科(地球惑星物理学専攻)修了後、宇宙開発事業団(現・JAXA)に勤務。2002年に東京大学で博士号取得。05年に 東海大学に着任。
【Key ward】情報技術センターの衛星観測
東海大学情報技術センターでは、1974年の設置当初から宇宙開発事業団(現・JAXA)などと連携して人工衛星による気象観測や衛星の開発に携わってきた。現在でも日本有数の研究機関の一つとして人工衛星「ひまわり」による気象観測やNASAの「Terra」と「Aqua」の画像を使った海氷・海況、雲・エアロゾル、地表観測を行い、全世界にその成果を発信している。「しきさい」プロジェクトには、中島教授のほかにも同センターから長幸平所長や福江潔也教授が参画している。