Column:知の架け橋
2017年9月1日号
未来を考える
医学部医学科内科学系 鬼塚真仁准教授

遺伝に沿った予防と治療を
医療費問題を多角的に考える


日本の医療制度の特徴は「国民皆保険」にあります。そのおかげで、私たちは最先端の医療を1〜3割の自己負担で受けられます。近年は新薬の開発などによって驚くほど高額な医療が提供されるようになりましたが、高額療養費制度を利用すれば、年収や年齢に応じた一定額を支払うだけで誰でも受けることができるのです。

こうした手厚い医療は、生存権と社会福祉・社会保障・公衆衛生について定めた日本国憲法第二十五条によって保障されています。

では、本人負担額以外の医療費は誰が支払っているのでしょうか? それは、医療保険加入者がこつこつと納めた掛け金と税金から支払われています。しかし、皆さんもご存じのとおり、この制度の行く末には暗雲が立ちこめています。病院に勤務する医師の目線から、医療費の問題を考察してみたいと思います。

そもそも病気にならなければ医療費はかからないので、重要になってくるのは予防です。食事の管理や運動の励行、禁煙、節酒といった、従来から指導されている一般的な健康法は、疾患発症の環境因子側を正すために大切です。 もう一つのカギとなるのが遺伝的背景です。近年、「病気のなりやすさ・なりにくさ」は、遺伝子によってある程度規定されていることがわかってきました。たとえば、お酒が強い人と全く飲めない人、その中間の人がいるのは、肝細胞に存在するアルデヒド脱水素酵素2の遺伝的背景が関係しています。同様に、遺伝子の違いによって、糖尿病や高血圧、各種のがんなどの病気になりやすい人とそうでない人に分かれるのです。

遺伝子が原因であれば、人によって環境因子指導は異なったものになってきます。つまり、個人の遺伝的背景をもとに予防策を考えることで、予防医療はよりいっそうの効果が期待できるのです。

留意しなければならないのは、個人の遺伝情報の漏えいです。そのため、厚生労働省は「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」で、遺伝情報の扱いについて厳重に注意するよう定めています。

予防だけでなく治療についても、遺伝的背景により効果や副作用に差が出ることがわかってきました。たとえば、お酒をいくら飲んでも酔わない人には薬が効かず、逆にお酒を全く受けつけない人は薬の副作用が問題になるのです。

遺伝的背景によって、決められた投薬量では効果が期待できない人と、毒性が出てしまう人がいることは、特にがん治療においては生命予後に係わる重要な問題です。各自の遺伝的背景に沿って、有効性が高く毒性が低い薬品で治療する――それが早期の治癒を可能にし、最終的には医療費の削減につながると考えています。

こうした理由もあって、私たちは遺伝的背景と治療効果についての研究に取り組んでいます。しかし、増大する医療費や医療保険制度の問題は医師のみでは解決できません。東海大学はさまざまな学部を持つ総合大学ですから、多角的にこの問題を捉え、解決策を議論できる恵まれた環境にあります。

皆さんとともに医療の未来を考えたいと思っています。興味のある方は当教室に遠慮なくご連絡ください。

 
(写真)医師・医学部学生による血液・腫瘍内科カンファレンス

おにづか・まこと 1970年東京都生まれ。東海大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)。専門は造血幹細胞移植。内科学系血液・腫瘍内科学に所属し、移植後合併症の研究に取り組む。