Column:知の架け橋
2017年7月1日号
「未来」を考える
情報通信学部組込みソフトウェア工学科 今村 誠 教授

人工知能(AI)は人間の仕事を奪う?
AI技術から見える人間の強みとは


最近、AI(人工知能)やロボットのニュースをよく目にする。「AIが囲碁や将棋のトッププロに勝利」「医療診断やコールセンターでのAIの活用が進展」「通信社が自動で記事を書く文書ソフトを導入」「運転手のいらない自動運転車の開発競争が激化」「人間の動作を真似る学習型の料理ロボットが登場」などなど。  

これらのニュースの技術的な背景としては、ディープラーニングに代表される最近のAIが、サイバー空間や実世界のビックデータから自ら学習することにより、自律的に成長する能力を備えつつあることが挙げられる。

このAIに対しては、豊かで便利な暮らしをもたらしてくれる期待がある一方、人間の雇用を奪うという懸念の声もある。雇用については、イギリスオックスフォード大学の研究者、カール・フレイとマイケル・オズボーン両博士が2013年に発表した論文が有名だ。

この論文では、代表的な職業70種に対して、AIの専門家から聴取した結果に基づき、「10〜20 年程度のうちに機械に代替される可能性が高い(70%以上)仕事は全体の47%」とされている。対して、代替されにくい職業としては、医師、小学校教師、エレクロニクス技術者などを挙げている。これらの職業はなぜ代替されにくいと考えられているのだろうか?

まず、AIの社会的な弱点は、現時点では責任能力がないという点にある。したがって、医師のように責任の伴う職業は、たとえ診断の精度が高くても代替されにくいと考えられる。

次に、技術的な弱点は、代替しようとする機能の手本となる大量の教師データが必要だという点にある。たとえば囲碁や将棋だと、過去のプロの棋譜データに加えて、コンピューター同士の対戦により無限ともいえる教師データを作ることがきるので強いというわけだ。

自動運転に関しては、運転の場面を網羅的に収集していけば、技術的には人間と同程度以上の信頼性が得られそうだと考えられている。逆にいうと、大量の教師データを作ることが難しいものは、現在のAIでは代替が難しい。小学校教師などは、子どものふるまいは予測するのが難しく、またその対処方法も臨機応変なためデータを集めることは難しそうだ。また、過去のエレクトロニクス製品の設計図を大量に集めたからといって、新製品の設計図は作れなさそう、というわけだ。

私は30年ぐらい前から、人間と自然言語で対話するソフトウエア、購買や業務ワークフローを自動化するシステム、製品不具合を未然防止するための設計知識の構造化手法、コールセンターやウェブのソーシャルデータから顧客のニーズを抽出するテキストマイニングなどの研究開発を経て、現在は、工場や設備のセンサーデータから機器の故障を予測する機械学習を研究している。何らかの意味で、人間の知的作業を機械で代替するための研究をしてきたともいえる。

今までは、生産性や効率の追求という観点から研究を進めてきたが、1年半前に大学に移った今思うのは、「AIがさらに進化したときに人間が大切にすべき能力は何か。さらには、人間が得意な能力を生かしたより高い価値を生み出す人間ならではの仕事とは何か」、また、「説明責任、倫理など現在のAIの課題である信頼性と安全性を保証するにはどうすればよいか」という問いである。今後は、「AIを社会のためにどう役立てるかを決めるのはあくまで人間である」という意気込みをもって、研究を進めていきたい。

 

いまむら・まこと 1986年京都大学大学院工学研究科数理工学専攻修士課程修了。三菱電機株式会社入社後、自然言語インタフェース、文書知識構造化、テキストやセンサーデータのマイニングなどの研究開発に従事。16年より現職。