Column:本棚の一冊
2016年12月1日号
『現代・法人類学』


本がつないだ師匠との縁
法学部法律学科 北村隆憲 教授



私の「一冊」とのめぐり合いは、学部の「5年生」のときだった。法学部で4年間勉強したが、にわかに卒業して就職するよりも、さらに勉強(そして、何か「研究」と呼べるようなこと)をしたいと強く感じていた。法学部で学んではいたが、法律の解釈の専門家になるよりも、より広い人間や社会との関係で法を考えたかった(というとかっこいいが、これは後知恵です)ので、哲学や人類学など法律とは関係ない本に強い興味を引かれていた。ただ、法学の勉強とそうしたそれ以外の読書との関係にもう一つ確信が持てず、自分の研究分野としてどういう方向を目指せばよいかはっきりしためども立たなかったので単位をわざと(ホントです!)落として、1年間の猶予期間を自分に与えた。
 
迷っている最中にとんでもないアイデアが浮かんだ。大学の中央図書館に毎日通って図書カードを検索し、法との関連で広く人間の本質に触れられるような分野や学問がないか探す、というものだった。
 
当時は今のようなコンピューターの画面に検索語を入れると自動的に本を探してくれるシステムはなかった。だから、図書館のだだっ広いフロアに果てしもなく延々と並んでいる(と当時思えた)木製のカード棚の中から、朝からアイウエオ順に並べられたすべての図書カード( 何万枚!)を1枚1枚めくっていかなければならなかった。
 
果てしなく続くように思えた作業を始めて10日が過ぎたころ、1枚のカードに出会った。それが、『現代・法人類学』の書誌情報が書かれたカードである(書名が「ゲ」で始まることが幸いした!)。
 
当時聞いたこともない「法人類学」という名称。こんな学問があるのかとびっくりした。3日間悩んだ末に、著者に「先生の授業に参加させてください」という内容の手紙を書き送った。すぐに「ぜひどうぞ」という返事をいただき、小躍りしてその先生の教える大学の授業を聴講するようになった。そしてその後、その大学の大学院に入学することになる。だからこの本は、私の学問上のメンターと出会わせてくれたものでもあったのだ。
 
現在すでに故人となった「先生」の全集の出版のための編集に携わりながら、研究室の本棚に大切におかれた「一冊」と「先生」との出会いを懐かしく思い出す。

『現代・法人類学』
千葉正士著
北望社(1969年)
 
きたむら・たかのり 1957年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。東京都立大学大学院社会科学研究科法社会学専攻修了。専門は法社会学。(共)著書に『非西欧法の法文化入門』(仏語)、『ケアとしてのコミュニケーション』など。